生成AIの進化が、ゲーム会社を取り巻く環境を大きく変えようとしている。中国でもこの流れは顕著で、ゲームプラットフォーム『TapTap』を展開する、上場企業X.D. Network(心动公司)では、創業者の黄一孟氏がAIを積極的に受け入れる姿勢を明確に打ち出している。
TapTapを支える『創作の民主化』思想
X.D.社はゲームプラットフォーム『TapTap』を中核に据えながら、AIが個人開発者の創作能力を飛躍的に拡張する未来を見据えている。2025年4月に発信した株主向けのレターでは、AI技術の進展によって『一人の開発者が、かつてはチームでしか作れなかったレベルの作品を完成させる時代が来る』と語り、こうした変化を前向きに受け止める姿勢を示している。
その実現のため、TapTapは単なる配信プラットフォームから、『開発者とユーザーが直接つながり、フィードバックを循環させていく創作の土台』として進化していく方針を取るとしている。


『AIは新人の仕事を奪うか?』への答え
また黄氏はWechatの個人アカウントで配信した動画の中で、社員の『AIの進化によって新人の仕事が奪われるのではないか?』という質問を取り上げた。その問いに対する答えを以下に紹介したい。
黄氏:
私は若手社員に、いくつか伝えたいことがあります。AIの影響は人によって違います。能力があまり高くない人は、確かにAIに取って代わられるかもしれません。ですが、見方を変えれば、新しく入社した人や新卒でこの業界に入ってきた人たちにとっても、これはとても大きなチャンスとなります。
業界が安定期にあるとき、新人が任されるのは初歩的な仕事で、裁量も少なく、サポートも限られています。経験やスキルも当然まだ乏しい。そういう状況で抜きん出て、中堅、シニア、さらにはリーダーへとステップアップしていくには、チャンスも少なく、道のりも決して楽ではありません。
最近よく『技術平権』という言葉を見かけますが、AIの登場によって、私たちが持っていたリソースは均一化が進んでいます。今、あなたが使えるAIは、私たちが使っているAIとまったく同じものです。
昔の私は、リソースを活用して100人規模のチームを動かしたり、大勢の若手を集めて物事を進めたりできました。ですがこれからは、AIを活用することで、わずかなリソースで同じような挑戦ができるかもしれません。
私たちがこうして今、あれこれ語れるのは、この20年間で成長の機会を得て、知識を蓄え、一般の社員では見えない情報にもアクセスし、実践を積んできたからです。
でも、たとえ私たちがどれだけ経験を積み、知識を広げたとしても、AIの前ではその価値は限られています。
今は、何かを学びたいと思った瞬間に、AIが検索エンジンのように答えを返すだけでなく、人と話すように一緒に考えてくれる。これは本当に大きなチャンスです。かつては絶対にありえなかった『世界で最も賢い存在と会話することができる』ことが、今は実現しています。これは、あなたの成長にとってものすごく大きな助けになるはずです。
従来、業界に入ったばかりの人材は、裁量の小さなタスクを積み重ねながら、時間をかけて経験を積むしかなかった。それが今では、AIによってリソースの差が縮まり、知識やツールへのアクセスが誰にでも開かれる時代になっている。

X.D. 社は、AI技術の進展を前向きに受け止めながら、自社の開発体制やプラットフォーム運営にどう組み込んでいくかを模索している。新人にとっての影響や可能性に踏み込んだ発信も含め、AI時代の創作環境をどう捉えるかについて、ひとつの考え方を示したと言える。
中国のゲーム企業の中でも、AIを既存の業務効率化にとどまらず、開発者とユーザーの関係や組織の役割にまで広げて考えようとする試みは、今後さらに注目されるかもしれない。
関連情報
X.D.社 株主向けレター:https://mp.weixin.qq.com/s/VrdQqxHtqkDCADMjO-6GKw