2007年にNHN Japanからスピンアウトして中国・大連に設立したNHN STは、ゲーム運営事業から開発、QA、ローカライズ、クラウドサービスまでワンストップでサービスを提供している。
そんな同社に忖度なしで突っ込んだインタビューを行ったところ、『人に依存しないQA体制』『頻繁に行われるスマホゲーム運営イベントのQA対応術』『QAスタッフはゲーム好きを採用する』など、QA部門立ち上げから10年近く日中間でQA事業を推進してきた同社の日本事業責任者の蔡氏とQA事業責任者の金氏が熱心に答えてくれたので、その様子を紹介したい。
立ち上げから10年!人に依存しないQA体制を構築
ゲーム大陸:蔡さんは現在はNHN STの日本事業の責任者でいらっしゃいますが、以前はQA業務を担当されていたと伺いました。実際にQAスタッフとして現場でQA実務を行われていたのは何年くらいですか?
蔡氏:QAスタッフとして2009年に入社してから約2年間QA実務を行い、その後4年くらいはQA部門の責任者を務めました。最初は主に『ハンゲーム』にあるPCゲームの対応をしましたが、モバイルゲームの急速な発展を受けて、2011年にモバイルQA部門を設立しました。
当時はLINEと同じ会社であったため、主にLINEとLINEゲームのテスト業務を実施しました。
(左:日本事業責任者 蔡丹氏 / 右:QA事業責任者 金鳳国氏)
ゲーム大陸:なるほど。QA部門の立ち上げメンバーなんですね!当時一番思い出に残ったエピソードなどありますか?
蔡氏:そうですね。QA部門が成立したばかりの時に、私も含めてほとんどの社員は未経験者でした。となると、やはり日本側と業務習慣が異なるため、コミュニケーションがうまくいかない時もあり、問題が頻繁に発生して何度もお客様に怒られましたね(笑)
その後はISTQB(国際ソフトウェアテスト資格認定委員会)の教育制度やナレッジシステムの導入などで品質が徐々に向上していき、今では成熟した業務体制とハイスペックな人材を整えることができたと思っています。
ゲーム大陸:なるほど。この10年で立ち上げから業務の成熟まで奮闘されてきたんですね。因みに蔡さん以外にもQA部門立ち上げ当時からの方はまだいらっしゃるのでしょうか?
蔡氏:そうですね。ご存知かもしれませんが、中国の離職率は日本より相当高いこともあって、10年経過するとほとんどのメンバーが入れ替わっています。
そのため、『リソース変動があっても業務への影響を最小限に抑えること』、『新人の教育時間を短縮させ即戦力を育てること』を主な課題とした取り組みに力を入れています。
例としては先程も話しました、ナレッジ共有システムの導入ですね。
効率的な作業方法やテスト技法などを、セキュリティが管理された共通のシステム上で共有することで、新人教育の効率化とともに、ノウハウ流失の防止などにも大きな成果を果たしていますね。
ゲーム大陸:なるほど。人に依存しない仕組みが既に構築されていると言うことですね。
PCからスマホへ 激変するQA業務に対応
ゲーム大陸:少し突っ込んだ質問になりますが、QAにおける『問題』というのはどういう問題が多いのでしょうか?いわゆるバグ確認に漏れがあったり、ということでしょうか?
金氏:基本は、ゲームの仕様に沿ってテストケースを設計し、テスト作業を実行することで、ほとんどのバグを検出することができます。
ただ、特別な操作や条件によって発生したバグはテストケースだけでは検出することが難しいです。その為に、色々な操作や条件を想定して実行する、といったイレギュラーテストが必要になりますが、やはりそこは経験とナレッジが必要になってきます。
ゲーム大陸:なるほど。そこは先程おっしゃったシステム上でナレッジを共有することで解決した、ということですね。
金氏:はい。そうです。
(ナレッジ共有システム画面)
ゲーム大陸:この10年間で、PCオンラインゲームとスマホゲームの両方のQA業務を行われてきたとのことですが、QA業務ではどの様な変化があったのでしょうか?
金氏:PCゲームはコンテンツボリュームも大きく、アップデート頻度が週に1回または、月に1回といったものが主流でした。検証や修正にかかる工数もそれなりに大きく、品質重視でリリースを見送ることも何度かありました。
しかしスマホゲームでは、定期的なアップデートに加えて、細かな仕様変更やイベント施策の実施をユーザーのニーズに合わせて頻繁に行うスタイルが主流になってきました。
これにより、よりスピード感を重視し、早く的確に完了させることが求められるようになりました。
(NHN ST社内 QA作業風景)
ゲーム大陸:なるほど。では、その変化にどの様に対応されたのでしょうか。
金氏:今、その場で求められているものを察知し対応するスキルを育成してきました。
例えば、イベントのアイテムを1つ急きょ追加することが決まった場合、『どの部分の検証を重点的に行い、どの部分を省略するのか?』といったことを、ユーザーの行動を推測しながら効率的なテストケースを作成していきます。
そうすることで、お客様(事業部側、開発側、ユーザー)により早くそしてより安定したゲームを届けるという意識が、スタッフ全員に染みついて来たと感じています。
ゲーム大陸:イベントにも課金施策やアクティブ向上施策などいくつかパターンがあり、それに付随するかたちで発生しうる追加項目も傾向が出てくるのではないか?と思いますが、『その場で求められているものを察知し対応するスキル』はリストアップするなど定量化できるものなのでしょうか?
金氏:もちろんゲーム内容を詳しく理解することが大前提となるのですが、基本は複数人のチームで業務を行うので、お互いにフォローしながら対応しています。
時にはユーザー動向を関連部署にヒアリングしながら、気づいた部分をテストケースのひな型に落とし込むなどして、パターンを増やしながら定量化できるようにしていますね。
ゲーム大陸:ありがとうございます。実際にQA業務を担当されているので、話に熱がこもっていますね(笑)
QAスタッフは『ゲーム好き』を採用条件に
ゲーム大陸:蔡さんの私見でも構わないのですが、ゲーム開発においてQAとはどんな存在だとお考えでしょうか?
蔡氏:QAやテストというと、『製品のバグを見つける』品質保証の業務だと思う方が多いと思いますが、実はそれだけではないんですよ。製品をお客様に提供する前に、一番多く内容に触れるのが、QA・テスト組織メンバーですので、タイトルに対する理解度が一番高い人達でもあります。
『このコンテンツが本当にお客様に喜ばれるのか?』と言ったユーザー目線も必要で、ゲーム開発の制作過程の中でも重要なプロセスだと考えています。
ゲーム大陸:確かにそうですよね。中国でQA業務を行うということでコスト面での優位性はあると思うのですが、今お話しされた『ユーザー目線』に関して、中国で大丈夫なのか?と感じる方もいるかと思うのですが、如何でしょうか?
蔡氏:ゲームというものは世界で共通したコンテンツだと思います。中国人でも日本人でも、ゲームの魅力は同じ様に感じ、同じ様に見えると思います。
私たちもゲームQAメンバーを採用する際は、『ゲームが好きなこと』を一つの基準としています。ゲームをよくプレイするからこそ、ユーザーの立場から見えるものや考えることも多いと思います。
(NHN ST社内ゲーム大会の様子)
ただ、例外の場合もありましたね。何年か前に野球ゲーム関連のプロジェクトを担当したことがありました。野球は日本ではポピュラーですが、中国では見る人がほとんどいないので、野球ルールを理解している人が非常に少ない、という状況がありました。
その時には、社内の日本人スタッフから野球ルールを教えてもらったり、日本のプロ野球を観るなど中国人スタッフに教育し、一緒に作業をしました。
その後、野球が好きになった中国人スタッフも増えましたね(笑)
ゲーム大陸:なるほど。日本人スタッフが社内にいた事で上手く対処できた分かり易い事例ですね。実際の作業を行う際の物理的な問題とかは無いのでしょうか?インターネット環境やテスト機材など。
蔡氏:そうですね。確かに中国はグレート・ファイアウォールという情報を遮断するシステムがあり、通常であれば中国国内からGoogleサービスやTwitterなどは利用できないですね。
その問題を解決する為に、日中韓の専用回線を構築していまして、社内からはスムーズにアクセスができます。
テスト機材なども日本や中国から定期的に購入するなど、最新の検証環境を整備していますが、ネットワークテストなど、実際に現地で実施しないといけない特定の作業は日本の関連会社と連携して実施しています。
QA自動化ツールを内製し最適化!週末もQA対応!
ゲーム大陸:QA業務では自動化ツールを使う会社さんも多いですが、NHN STさんでも自動化ツールの導入はされているのでしょうか。
金氏:はい、使っています。自動化ツールを運用することで、作業工数の短縮ができ、コストの削減につなげることができますし、ヒューマンエラーの排除や手動での検証が実施できない作業も実現することができるのが良いですね。
当初、『Selenium』や『Appium』などの自動化ツールを導入しましたが、設定の煩雑さや処理速度が遅いなどの欠点があり、すべてのプロジェクトにマッチさせることができませんでした。
その為、運用プロジェクトに特化した自動化ツールを開発する部署を新たに設立し、実際の状況に合わせた最適なツールを内製しています。
(NHN ST社のテスト自動化ツール一例)
ゲーム大陸:ゲーム開発ではスケジュール変更が良く起こりますが、急にQA業務をお願いすることも可能なのでしょうか?
金氏:むしろそれは普通なことですね(笑)
ゲーム運営の中で、ユーザーの動向などを随時把握、分析しながら、イベント追加やバグ修正などのパッチ適用、臨時メンテナンスはよくあります。そのため、必要に応じて週末の臨時出勤なども可能な体制を敷いています。
ゲーム大陸:おお、週末対応は助かりますね!ぶっちゃけた話しになりますが、QA業務を行う会社さんはいくつもあり、差別化が難しいのではないか。と感じています。
金氏:QA業務における、品質向上と業務効率化は永遠の課題で、この2つを両立させることは難しい側面もあります。
中国に拠点を置いている特徴を活かして、コスト面で差別化を図るのは勿論なのですが、長年にわたりQA業務を行ってきたこともあり、豊富なリソースとノウハウの蓄積が強みだと思っています。
そして、近年では中国で開発しているゲームも多くなっているので、中国開発と日本運営との間のブリッジ役を兼ねるQA業務も多くなりました。
こういった仕事の中で育成したQA人材は、ゲーム事業に対する理解力も高く、今弊社で準備を進めている中国国内事業で活躍できる予備人材にもなっています。
ゲーム大陸:なるほど。発注側からすると、ブリッジ役を兼務したQA業務は上手く活用できると事業に幅が出せそうですね。最後に読者の方に一言お願いいたします。
蔡氏:はい。今お話ししたブリッジ役を兼ねたQA業務もそうですが、日中間のビジネス経験が私たちQA組織の強みだと感じています。今後も『QA業務プラスα』のような取り組みを考えながら、何か新しいことをしたいと考えていますので、ちょっとしたことでも構いませんので、気軽にご連絡いただければと思います。
ゲーム大陸:本日はありがとうございました!
蔡氏、金氏:こちらこそ、ありがとうございました!
関連情報
お問合せ先:蔡 丹 ( dl_stsns@nhn-st.com )
NHN STホームページ:http://www.nhnst.com
NHN ST中国ゲーム事業詳細:https://lnk0.com/Nh0wZl
公式ツイッター:https://twitter.com/nhn_cn